第六章-4-
こんな


こいつを見るなんて



初めてだ








「ん?」


ひたり、ひたり、と

静かな玄関に近づく1つの足音に、蓮はフロアに立ち止まり耳を澄ませた




今は授業中


普通、この時間に寮にいるのは、体調不良で学校を休んでいる者や、無断欠席をしている者

そして、寮監長の自分のみ


もし玄関を通れば、その生徒のIDカードから少なくとも自分の携帯端末に氏名が通知されるはずだ

しかし、それもない


・・・と、なれば



「生徒会か風紀の奴等か」


唯一カード番号が通知されない、多くの『特別免除』を許可されている者

それが『生徒会役員』と『風紀委員』だった




足音が更に大きくなり、ようやく見えたある人物の姿に蓮は息を飲む










「・・・篠・・・崎?」


現れたのは確かに『篠崎 敦也』だった


でも


彼はいつもの『篠崎 敦也』ではなかった




「・・・寮監、408の鍵」


ただ、ポツリと零された言葉で、蓮の全身に鳥肌が立つような寒気が走る


蓮はただ怖い、と思った


こんな言葉で表せるほど単純じゃないけれど

それ以外の表現方法は知らなかったから




こんな『篠崎 敦也』は見た事がない

体の全てから怒りのオーラがマグマの様に湧き出ている


表情はいつもと変わらぬ無表情のままだったが、それでも何かに対して怒っているのだと分かった




「408の鍵・・・」


催促するように、自分の前へ差し伸べられた手でさえ、蓮にとっては危険に思える

しかし


その用件を飲める程、蓮は自分の仕事に怠けてはいなかった


「何のためだ?理由を言え。内容によって、断る」

予想外の言葉だったのか、敦也の眉がピクリと動く

「・・・私用で」

呟かれた言葉は、誰も居ないフロアでなければ聞こえなかっただろう


「なら、渡せないな」

「どうしても・・・?」


一層低くなる敦也の声に負けそうになるも、蓮は拳を握り締めて敦也を見つめ返した


「どうしてもだ。いくら生徒会役員でも、個人の部屋へ「じゃあ、いらない」・・・え?」


今までにない状況に、蓮は何かされるかと、身構えていたが

敦也はあっさりと蓮の横を通り過ぎてエレベーターへと歩き出した


そして、呆然とする蓮を無視し、ボタンを押してエレベーターに乗り込むと

ある言葉を残して、その扉を閉める




「な・・・」

たった数分の間に、蓮の額には玉の様な汗がいくつも浮かび

握り締めていた拳には、皮膚にしっかりと爪が食い込んでいた



その痛みも忘れて、蓮は敦也の言葉を思い出す




『扉、後で弁償する』




膝が今になってカタカタと震えだし、手を膝にあてて必死に震えを抑えた



「あいつは本当に高校生なのか・・・」


あいつより何歳も上の自分でも、恐怖を感じて動けなくなる程の禍々しいオーラ


まるで大蛇に睨まれているネズミの様な気分だった





それにしても・・・


汗が額から、首筋へと落ちる感覚に段々と蓮の頭も冴えてくる


最後に敦也が発した言葉は何を意味しているのか


『扉、後で弁償する』


たった一言だけれど、それは確実に『扉を壊す』事、つまり篠崎が暴れる事を示しているのだろう



「・・・ッ」

ポーン

エレベーターが止まった階を確認し、蓮は慌てて隣のエレベーターへと乗り込んだ


あの『篠崎』が関わりのない4階へなど行くはずがない


俺が知っている中で、あいつが動くのは








『二宮 祐樹』関係の事のみ



帰ってきた姿を見た事はなかったが、きっと俺が目を離している間に寮に戻って来たんだろう

篠崎もそうだが、二宮に『また』暴れられると、今度こそ本気で困る



徐々に増えていく文字を見つめながら、蓮は壁を指で叩き続けた

焦りから無意識に起こるそれは、上昇を続けるエレベーターの中で大きく響く



『408』の鍵、と篠崎が言っていたから

きっと、二宮もその部屋にいるはず



一体何があったんだ・・・




ピーンポーン

到着を知らせる音が鳴り、エレベーターの扉が開く



「・・・えっ?」



開かれた扉の向こう側の景色に、蓮は思わず眉を顰めた





そこには





壁に背を預けるように、持たれかかる二宮と


拳を壁に叩きつけて、二宮と対峙する篠崎の姿



そして

その様子を壊された扉越しに、涙目で見つめる上半身裸の可愛らしい男





ガツッ


「っ・・・おい、止めろっ!!」


蓮が周りを観察している間に、篠崎の拳が二宮の顔を掠めて壁にめり込み

鈍い音が静かな廊下に響き渡る



再び振り上げられた拳に気付き、蓮は急いでエレベーターを飛び出した




<back/next>

プロローグから読む
第一章から読む
第二章から読む
第三章から読む
第四章から読む
第五章から読む
第六章から読む

【 2008/06/25 20:00 】

| 小説-メイン- | コメント(1) |
<<俺達の関係10(※) | ホーム | 続・羽球ラバー>>
コメント
--- 管理人のみ閲覧できます ---

このコメントは管理人のみ閲覧できます
* [編集] 【 2008/06/26 00:05 】
コメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する

| ホーム |